自分の財産をどんなふうに、誰に残したいのかを記す遺言書。
自身の年齢や健康を考えたとき、あるいは終活の一環として、遺言書の作成を検討する人もいるでしょう。

今回は遺言書について種類や書き方のポイントなどをお伝えします。
「作成する必要はあるのかな?」「そもそも遺言書って何?」という疑問を持つ人は、ぜひ参考にしてください。
大切な人への思いを形にするために、遺言書作成の基本知識を押さえましょう

遺言書の概要と重要性

遺言書とは、自身が亡くなった後に、財産をどう分配するかを記しておける法的文書法的効力のある文書です。
遺言書がない場合、遺産は法定相続民法に定められた法定相続分に基づいて分配されます。
配偶者や子どもなど、法律で定められた相続人が優先されるため、配分が故人の希望とは異なるケースもあるでしょう。

また遺言書がない場合、相続人同士の話し合いによって遺産の分け方を決めますが、時には話がまとまらずにもめてしまうことも。
相続がきっかけで遺された家族が不仲や疎遠になってしまう場合もあります。
誰に何を残すのかを遺言書で明確に示しておけば、基本的には内容に沿って財産を残せますし、故人の遺志を尊重することで遺された家族の争いを防ぐ効果も期待できます

自分の意思を反映するためにも、残された大切な人がスムーズに遺産を受け取るためにも、遺言書の作成は重要といえるでしょう。

特にどんな場合に作成が必要?

遺言書作成が望ましい状況はさまざまですが、特に以下のようなケースが考えられます。

・法定相続人ではない人に財産を残したい場合:
子どもの配偶者や内縁の妻(夫)、友人、介護をしてくれた第三者など、法定相続人ではない人に財産を残したい場合には、遺言書で明確に記載する必要があります。
また特定の財産を指定した人に残したい場合、その旨の記載も重要です。

・一番世話してくれた子どもに多めに相続したい場合:
介護などで特に世話をしてくれた子どもに対し、感謝の気持ちを込めてほかの子どもよりも多くの財産を残したいケースも挙げられます。
遺言書がないと法定相続に従って平等に分配されるため、意思を反映できません。

・子どもや配偶者がいない場合:
子どもや配偶者がおらず、すでに親も亡くなっている(おひとりさま)の場合、遺産は兄弟姉妹や甥姪などの親族に分配されるか、最終的には国庫に帰属します。
遺言書を作成しておくことで、自分の意思に従って遺産を分配できます。

・離婚歴があり、元配偶者との間に子がいる場合:
離婚した元配偶者には相続の権利はありませんが、元配偶者との間に生まれた子どもには権利があります。
元配偶者の子どもと新たな家族との間でトラブルが起こる可能性も考えられるため、遺言書で具体的な分配方法を明記しましょう。

・子ども同士の関係が良好でない場合:
子ども同士が不仲である場合、遺産分配をめぐって争いが生じる可能性があります。
遺言書で明確な分配方法を示すことで、トラブルを避けやすくなるでしょう。

・不動産を所有している場合:
遺産に不動産があると相続人が複数人いる場合、法定相続分の割合で分けることが難しく、遺産分割の話し合いも難航するケースがあります。
自身が所有する不動産を誰に遺すのか、どのように分配するかを遺言書を残すことで遺されたご家族の負担を減らすことができます。

なお、遺言書を作成する際には、遺留分を考慮することも重要です
遺留分とは、兄弟姉妹を除いた法定相続人が、最低限確保できる財産の割合のことです。
法定相続人は家族構成により異なりますが、配偶者・子ども・孫・親・祖父母などが該当します。

たとえば特定の人に全財産を残すと記載しても、遺留分が侵害されると法定相続人から異議を申し立てられる可能性があります。
遺言書の内容が法的に無効になるリスクがあるため、専門家に相談するなど十分に配慮しましょう

遺言書は主に3種類

遺言書には大きく分けて主に「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。
このうち利用されるケースが多いものは、自筆証書遺言と公正証書遺言です。
秘密証書遺言はあまり一般的ではありませんが、遺言書の基本知識としてご参考にしてください。

自分自身で手書きする「自筆証書遺言」

自筆証書遺言は、遺言者自身が全文を手書きして作成する遺言書です。
作成費用がかからないうえ、他人に内容を知られることなく遺言を残せます
ただし書式に不備があると無効になる可能性が高い点や、紛失・改ざんのリスクがある点には注意しましょう

ちなみに自筆証書遺言の内容を実行するためには、遺言者が亡くなったあと、家庭裁判所で検認を行う必要があります。
検認とは、偽造防止などを目的に、遺言書の内容を確認する手続きです。
最高裁判所が公表する「司法統計年報」によると、令和4年には20,500件の検認が実施されました。

なお、検認は遺言書の有効性を判断するものではありません。手続きを経ても、不備等で効力を持たないケースも考えられるため、後述する作成ポイントを確認しましょう。

公証人が作成する「公正証書遺言」

公正証書遺言は、公証人の立ち会いのもとで作成される遺言書。
法律のプロである公証人が作成するぶん、遺言が無効になるリスクを最小限に抑えられる点が特徴です。
また公証役場で保管されるため、紛失・改ざんのリスクが減らせるうえ、検認手続きの必要がありません

一方で作成にあたっての必要書類を揃える作業・作成に費用がかかる点や、証人2名の立ち会いが必要な点には留意しましょう。
作成費用は財産の価額に応じて定められています。
証人については、相続人になることが推測される人や未成年者などは指名できません。
証人が見つからない場合、弁護士・行政書士などに依頼することや、公証役場から紹介を受けたりすることも可能です。

公正証書遺言を作成するにあたっての一連の流れや必要書類の把握と揃える作業には、時間も労力もかかりますので、相続や遺言書に詳しい士業に相談や依頼をして作成を進められる方もいます。

ちなみに日本公証人連合会によると、令和4年には111,977件の公正証書遺言書が作成されました。
自分で記載することに不安がある人は、公正証書遺言を検討してみましょう。

内容を伏せつつ存在を証明する「秘密証書遺言」

秘密証書遺言とは、遺言書の中身を秘密にした状態で、存在を公証人に証明してもらえる遺言書です。
公正証書遺言と同様に証人の立ち会いが必要ですが、その際に内容を見られる心配がありません

ただし公証人も内容を確認できないぶん、不備がある可能性もあります
また自身で保管する必要があるため、改ざんや紛失のリスクがある点にも注意しましょう。

自筆証書遺言の作成ポイントをチェック

自筆証書遺言はパソコンや代筆でなく、自筆で作成しましょう
紙やペンの指定はありませんが、後述する「自筆証書遺言書保管制度」を利用する場合は、A4サイズの用紙に記載してください。
なお例外として、財産目録は現在自筆でなくてもかまいません。
パソコンで作成したり、通帳のコピーなどを添付したりする方法が認められています。

正確な日付を記載することも、作成時のポイントです
たとえば「令和6年4月吉日」ではなく、「令和6年4月1日」「2024年4月1日」など、作成日がわかるように書きましょう。
その他、自筆証書遺言の書き方のポイントについてはまた別の機会に記載したいと思います。

また遺言書の内容は、具体的かつ明確に記載することが重要です。
誰に何を残すのかがあいまいな場合、遺言書の内容が不明確として無効になる可能性もあります。
大切な人に自分の意思を正確に伝えるためにも、ひとつずつ確認しながら書き進めてみましょう。

よくある質問

遺言書作成に関するよくある疑問について簡単に解説します。
ご参考頂けますと幸いです。

遺言書は作り直せる?

遺言書はいつでも作り直せます。
遺言書を部分的に変更することも、完全に無効にすることも認められているので、状況の変化に応じて作り直すのもよいでしょう。

遺言書を作成する際に用意するものは?

公正証書遺言にしても自筆証書遺言にしても遺言書を作成する際に、書類を準備すると遺言書の作成が進めやすくなります。

・本人確認書類
・戸籍謄本
・通帳
・実印
・登記簿謄本 など

状況によって必要書類が異なるため、あくまでひとつの例として参考にしてください。

自筆遺言書はすべて手書きでないとだめ?

自分で書いたものであることを証明するため、基本的には手書きで作成する必要があります。
ただし法改正により、財産目録部分はパソコンで作成したり、通帳のコピーなどを添付したりすることが認められるようになりました。

2020年に始まった「自筆証書遺言書保管制度」って?

自筆証書遺言を法務局に保管してもらう制度のことです。
遺言書の紛失や改ざんを防げるほか、検認手続きを省略できる特徴があります。

制度を利用するためには、全国にある法務局で申請手続きが必要です。
申請時には、形式要件を満たしているかどうかを法務局職員がチェックします。
有効性が保証されるわけではないものの、形式の不備で無効になるリスクが減らせます

法務省の「遺言書保管制度の利用状況」によると、制度が始まった2020年7月から利用者は増加傾向にあり、2024年3月までの累計で71,219件です。
自筆証書遺言の作成を検討する人は、注目してみましょう。

エンディングノートやビデオレターでの遺言は法的に有効?

エンディングノートやビデオレターには、法的な効力はありません。
ただし大切な人に思いを伝える手段としては有用なので、遺言書とあわせて利用するのもよいでしょう。

自分と大切な人のために遺言書を作ろう

遺言書は自分の意思を実行し、かつ遺族間のトラブルを防ぐための大切な文書です。
遺言書にはいくつかの種類があり、長所・短所も異なります。
それぞれの特徴をふまえて、まずは希望に合うものを選ぶところから始めてみてはいかがでしょうか。

遺言書作成のプロセスで不明点や心配事があれば、専門家に相談することも可能です。
弊所でも各々の遺言書作成のサポートに対応しているので、ぜひご相談ください。